MISAKI 未来農園プロジェクト – Misaki Creators

MISAKI 未来農園プロジェクト

獣害や気象変動、高齢化に負けない!

越前水仙 みんなの力で100万本再生へ

◆福井県花を未来へつなぐ地域創生プロジェクト

 農水省アワード全国の優良30選

越前町上岬地区の梨子ケ平は、福井県花「越前水仙」の花畑が広がる重要文化的景観の中核ゾーンです。

日本水仙の国内3大群生地に数えられる畑の一角に、MISAKI CREATORS(岬クリエイターズ)のオフィスがあります。

私たちMISAKI CREATORSは、越前岬周辺地域に新しい経済と交流によって活性化を図る地域創生事業のコーディネートを手掛けています。

地域創生の核となる取り組みとして、越前水仙に焦点を当て、2023年夏にスタートしてから2年目を迎えているのが「MISAKI 未来農園プロジェクト」です。

過疎高齢化による担い手不足が年々深刻化していく中で、切り花の生産量は1980年代をピークに大きく減少。長く解決できないでいた中で、畑一面をシカに食い荒らされる獣害や気象変動による開花時期の不安定、重い雪が頻発するなどの課題が重なり、産地の未来はピンチに立たされています。

いずれも農家個人で解決できる域を超えた社会や地球規模の変動に伴う課題です。

そこでMISAKI CREATORSは、企業や大学、個人など過去の枠組みに捉われない新しい力を産地に融合。課題に立ち向かい、一歩ずつ解決しながら未来を拓く流れを築いています。

実際に福井県内外に連携の輪は広がり、生産高を少しずつですが押し上げ始めています。

さらに、企業連携により、応援購入型の付加価値を付けた切り花などイミ消費タイプの商品やサービスも順次市場に投入。産地にこれまでなかった経済を新しく構築しながら、持続可能な取り組みへとプロジェクトを進化させています。

2024年度は、この取り組みが政府有識者会議から評価され、農林水産省の第11回「ディスカバー農山漁村(むら)の宝アワード」において、全国の優良事例30選に選ばれました。

スタッフが官邸での交流会に招かれ、石破首相らから激励もいただいたところです(次のURLよりブログや政府サイトをご参照願います)。

(ブログ)https://misaki-creators.myshopify.com/blogs/news/2025-01-07

(農水省HP)https://www.maff.go.jp/j/press/nousin/nousei/241125.html

(官邸HP)https://www.kantei.go.jp/jp/103/actions/202501/07mura.html

プロジェクトについでは、以下の2章から詳しく紹介させていただきます。

【1】重い課題

【2】プロジェクト始動、広がる連携

  × × ×

【第1章】重い課題

◆福井を象徴する景観だけど・・

一面に点々と白い花。

この水仙棚田「千枚田水仙園」は重要文化的景観の中核であるとともに、日本の棚田風景百選にも数えられるなど、福井を象徴する景観です。

しかし、下の画像は残念ながら1年前の2024年の撮影。

その下が直近2025年1月の光景です。

本来12月~1月の冬場は越前水仙の開花とともに切り花の出荷が最盛期となるはずなのに、背丈が低くて開花もなかなか進まない状況が続いたのです。

とうとう一面が白く染まる毎年の光景が見られないまま早春を迎え、2月中は2度にわたって長く居座った寒波のため、水仙が何度も雪や強風につぶされるという大変なシーズンとなってしまいました。

原因とみられるのは、地球温暖化に伴い夏場に続いた猛暑と少雨。地中温が冬になっても高かったのでしょうか。水仙がなかなか生長しなかったのです。

最大の需要期である年末年始の花需要に開花が間に合わなかったことから、水仙農家の皆さんにとって厳しい状況となっています。

◆シカの食害も一段と深刻化、開花遅れに追い打ち

▽ダブルパンチ

襲いかかる逆風は、これだけにとどまりません。

この10年あまり苦しんでいたシカの食害やイノシシに破壊される被害が、産地内で一段と深刻化しているのです。

次の画像は、千枚田水仙園で2月に撮影した被害の様子。

このように、人が寝静まった夜のうちに畑に侵入したシカが広範囲に水仙を食べら荒らす被害が産地全体で相次いでいるのです。

食べられた跡では、なぜか地中の球根の多くが消滅。それまで花一面だった畑が日を追うごとに消えていっています。

日ごろ暮らす森の中で食べ物が少なくなる冬場に水仙は、シカにとって絶好のエネルギー源のようです。

小さくて若い花を好む傾向があるとみられ、ただでさえ気象異常で生育が不安定になっている中で、せっかく出てきた花芽がシカに食い荒らされてしまう。そんなダブルパンチの状況に、「このままでは、何年後かどころか、来年の冬に産地があるかどうか」。農家の皆さんから、そんな不安さえささやかれるほどの深刻さです。

次の画像は「梨子ケ平園地」の昨年(2024年)と今年(2025年)2月の比較画像。

日本海に向かって畑が広がるこの梨子ケ平園地は、千枚田水仙園と並んで重要文化的景観の中核ともいえるゾーンでした。

しかし、この1~2年間にシカの被害が深刻化し、今では生き残った水仙が小さくまだらに葉を伸ばしている状態。

消滅の危機と言っても大げさではない状況に陥っています。

シカは今冬(2024年~25年)、次の餌場の照準を千枚田水仙園に定めたようです。

12月以降、MISAKI CREATORSが管理する畑に毎日のように侵入し、被害が拡大。それに対応するシーズンとなりました。この点は次章以降で紹介します。

▽先行して岬南部は壊滅的被害

次の写真は、岬南部の高台にあるもう一つの集落・血ヶ平。

6年前の2019年1月に撮影した光景です。

これもまさに温暖化の影響でしょう。この10年余り、関西方面から北陸の福井へとシカの生息域が拡大。開花期だというのに全く花が咲かない壊滅に近い状況に陥った畑が岬南部の至る所で見られるようになったのです。

球根も食べられてしまうため、畑にとってはまさに、致命傷に近い状態です。

北進してきたシカにとって、冬場も積雪が少ない海岸線に咲く水仙は、絶好の餌となります。

大食漢として知られる動物だけに、岬の南部一帯の水仙畑では北部に先行して大変な状況に陥ってしまいました。

 

さらに、梨子ケ平の一角で撮影した次の画像をご覧ください。

無残にほじくり返された地面。シカだけでなく、イノシシに畑一帯を掘り起こされる被害も深刻化しているのです。

 

30年間で人口4分の1

これらの画像を見てお気づきになったかもしれません。

動物の被害を受けた畑の多くは、土地が荒れ、ススキなどに覆われた空間が目立つようになります。

農家さんの多くは70代前後と高齢。

それまで大切に守り育ててきた畑一面が動物に荒らされたのを機に、栽培や出荷をあきらめるケースが、ここ数年、増えているのです。

あまりの被害の状況にがっかりし、もはや再生させるほどの気力は、高齢の身になかなか沸いてこないというのが実情でしょう。

 

都市部から遠く離れた海岸線のこの地域では、高度経済成長が終わって以降の30年余りの間、人口減が急速に進行。

栽培集落の一つ・血ヶ平では人口が4分の1レベルにまで減少するという大変な事態になっています。

畑を維持するマンパワーが失われていく中で、追い打ちをかけたのが獣害だったのです。

 

昭和の終わり頃、200万本以上あった越前町の切り花出荷本数は、平成をはさんだ30年余りの間に3分の1ほどに減少。近年は100万本に届かない年も目立っています。

つまり、100万本以上のダウン。

「このままでは水仙どころか、集落さえも10年持つのか分からない」

このような声が、住民たちの間で公然と交わされるほどに、福井県花・越前水仙の未来はピンチに陥ったのです。

【2】プロジェクト始動、広がる連携

 「みんなで」。交流参加型のコミュニティ農園づくり

プロジェクトの名称は「MISAKI 未来農園」。

合言葉は「みんなの力で100万本再生!」。

人が少ないのなら、人を招く。この地域や越前水仙に、未来の可能性を求める方を福井県の内外から広く募り、一緒に取り組んでいただける仕組みをつくる。

越前水仙にビジネスチャンスやSDGs貢献発信を求める企業だったり、ファンの拡大を目指すスポーツチームだったり、副業を求める社会人だったり。

課題の影響が大きい畑を順次「未来農園」と位置付け、参加者が自由に集う環境をつくりながら、一緒に畑を再生し、草を刈り、球根を植え、収穫・出荷する。そんな流れを築いています。

みんなでつくる「コミュニティ農園」づくりです(※次の図解を参照)。

 

プロジェクトのスタートアップとして2023年夏以降、維持・再生へと本腰で着手しているのは、次の図の緑色で囲った畑です。

2024年は、千枚田水仙園内でエリアがさらに拡大しています。

 

いずれも、日本海を見下ろす景勝地として知られる花空間ながら、ご高齢のため農家を引退したり、一家で遠方に引っ越したりして、手入れができなくなった畑です。

対策として、所有者に代わって畑を再生したり、管理・生産を代行するなど、産地にこれまでなかった新しい仕組みを導入しています。

そして、趣旨に共感し、取り組みに参加したいとする企業や団体、個人が集まってきていただいています。

【参加企業・団体】

Japan Flower Corporation(本社:富山県射水市)

いけばな草月流(本部:東京青山)草月陶房(越前町)

イワタグループ(本社:福井県坂井市)

・NTT西日本福井支店(福井市)

・RICOH JAPAN福井支社(福井市)

・福井村田製作所(本社:福井県越前市)

・JT日本たばこ産業福井支社 (福井市)

 

【参加個人・工房】

・福井県内(越前町、越前市、福井市)の社会人男女

・福井県内(福井市、鯖江市、越前市、大野市)の音楽家やアート作家 

 

【参加スポーツチーム】

フットサル福井丸岡RUCK(拠点:福井県坂井市)

 

【連携機関】

・農林水産省北陸農政局

・福井県

・福井県立大学経済学部杉山友城研究室

・越前町

・JA福井県

・梨子ケ平、左右、血ヶ平の各集落

・水仙農家有志

「みんなで草刈り」と題したイベント的な草刈りの取り組みを初夏と秋口に行うなど、多くの力で畑の維持管理を展開。

冬場は収穫を行ったりと、これまでにないオープンに連携するタイプの農作業。それが「コミュニティ農園」です。

◆ビジネスチャンスやSDGs貢献を求める企業と連携次々、草刈りや収穫後押し

先行して2023年に参加したNTT西日本、RICOHジャパンの両福井支店と福井村田製作所の3社様からは、福井県花の未来とともにSDGsに貢献したいとするニーズが寄せられています。

草刈り機を持参された社員様もおられ、数の力で作業を強力にバックアップ。日本海の壮大な海の景観を前に汗を流したり、一面の白い花に囲まれて摘み取りを行ったり。

社員の皆さまの参加満足度も高いようです。

※参照=福井村田製作所様Facebook

2024年度は、JT日本たばこ産業福井支社の社員様も参加し、さらにパワーアップして作業に取り組んでいただいています。

 

◆応援購入型の水仙を商品化。

 スマイルフラワープロジェクトと連携

持続可能な取り組みとする上で欠かせないのが、経済力です。

100万本再生実現のためには5年や10年という長い年月においての手入れの積み重ねが必要。

取り組みを経済的に後押しする手段として、市場や消費者の皆さまに、「応援購入」という新しい付加価値を伴った越前水仙の切り花を提案させていただきました。

プロジェクトの推進するための資金を水仙1本当たりの単価に組み込み、販売していくものです。

上の画像の店舗は「花まつ」様。北陸の花卉卸販売大手として知られるジャパンフラワーコーポレーション(JFC)様の直営店です。

JFC様は、消費者の皆さまと一緒に花農家を応援するスマイルフラワープロジェクトを展開。これにMISAKI未来農園プロジェクトも連携させていただくことになりました。

(※「応援購入水仙」は次のURLより)

https://misaki-creators.myshopify.com/products/ouen-suisen30

スタッフたちと梨子ケ平で摘み取った水仙をJFC様へ「応援水仙」として出荷。花まつ各店やスマイルフラワープロジェクトのオンラインショップページで販売いただいています。

年末年始はすぐに売り切れるなど、多くのお客様に好評です。

販売益は、未来農園プロジェクトを推進する大きな力となっています。

◆高齢等の農家さんに代わる作業代行を本格化。応援水仙の供給体制を構築

「応援水仙」の販路開拓と併せて欠かせないのが、落ち込んでいる花の供給体制の再構築です。

そこで、MISAKI CREATORSのスタッフが2023年冬から、企画・コーディネートの役割を超え、直接的に収穫・出荷の作業を手掛けさせていただくことになりました。

担い手不足が課題となる中で、ご高齢などで維持管理ができなくなった畑の作業をMISAKI CREATORSが代行する仕組みを梨子ケ平集落の皆さまとともに構築。

連携企業や副業参加の皆さまのお力もいただきながら収穫を手掛け、JA福井県様へ出荷。

売上の一部を畑の賃料として所有者様へバックする仕組みを設けました。

慣例としてこれまで、越前水仙で農家を引退した後に継ぎ手がないない場合は、地域の現役農家さんに無償で耕作の権利を譲渡し、福井県を象徴する花景観や産業を守るという流れでした。

でも、せっかく汗を流して守ってきた先祖代々の畑。

老後も経済的に恩恵を受けつつ、プロジェクトの耕作面積を拡大する手法がとれないかと、梨子ケ平集落と協議し実現したのが、この仕組みです。

◆産地の生産高を2%超底上げ成果

MISAKI CREATORSスタッフは2023年12月から翌年1月末まで、連日のように畑に入り、収穫を実施。

この結果、1万5,000本超をJA福井県様へ出荷することができました。

この本数は、今季の産地全体(61万3,000本)の 2.5%、越前町内の3.2%に相当する量。

つまり、産地の生産高を2%超押し上げる成果をもたらしました。

アルバイト、ボランティアを投入日は1,000本超の出荷を実現するなど、未来農園プロジェクトで築いた仕組みが威力を発揮すると裏付けられたことになります。

目指す「100万本再生」へ、弾みとなったスタートアップの2023年度でした。

今冬は、代行面積をさらに拡大して生産量もアップさせていきます。

 


◆荒らされた畑で球根植えによる再生も本格化

水仙畑の再生を軌道に乗せる上で欠かせないのが、荒らされた畑に球根を植え直す取り組みです。

2024年秋もJA福井県様から仕入れた数千個を梨子ケ平や血ヶ平の圃場にスタッフたちと植え込みました。

 ▽福井県立大学ではモデル的に球根のサテライト圃場

球根による畑の再生に取り組む上で、やはり課題となっているのがシカです。

芽が出たばかりの水仙は新鮮でおいしいのでしょうか。シカに狙われやすく、せっかく植えたのに食べられてしまうリスクがあります(実際に被害に遭っています)。

そこで、福井県立大学と連携して着手したのが、サテライト農園づくり。

未来農園プロジェクトらしく「ピンチの福井県花を県内のみんなで守り増やそう」。

そんな合言葉で、獣害リスクが比較的少ない平野部で球根を養生して越前岬に戻す取り組みを、モデル的に立ち上げたのです。

永平寺キャンパス内の一角に圃場を設け、杉山研究室の学生たちと作業を展開。

今秋まで2年間に、約5,000個を植え付けています。


◆いけばな草月流とも連携

いけばな流派との素敵なコラボも実現しています。

「草月流」様です。

地元越前町の越前陶芸村には、三代家元で映画監督の故勅使河原宏さんが越前焼工房「草月陶房」を築いたことで知られます。

その縁で、2023年9月10日、四代家元主催のツアーを未来農園の一角で開催。全国から参加した流派の人たちが家元と一緒に球根植えを手伝ってくれました。

これに先立って8月末には、草月陶房のスタッフ二人も、候補となる畑の一つ・梨子平園地の草刈りや球根の手入れに汗を流していただきました。

青い海を眼下に見下ろしながら作業に汗を流した二人は「草刈りをお手伝いしたことで、農家の皆さまと一つになれたような気がします」と流れる汗をぬぐい、笑みを浮かべていました。

畑の再生に貢献しつつ、年明けには、ツアーに参加した家元をはじめ会員の皆さまが、東京・青山の草月会館に集い、未来農園で育った水仙と越前焼の花器でいけばなを楽しんでいただきました。

※ご参照=いけばな草月流「学びの旅」

 「素晴らしい企画」だと会員の皆さまから評価いただき、今冬も全国の会員様と収穫ツアーを通して交流いたします。

 

▼みんなで未来へ!

副業として参加いただいている方々から、次のような声をいただいています。

「このプロジェクトに加わると、なんだか元気が出ます」

「ここにきていると、全てを忘れて未来へと歩ませてくれるよう」

このような存在を一人でも増やしたい。その先に、コミュニティ農園の活性化があります。

オリジナル水仙の販売など新しい企画を通して賛同の輪か広がり、連携を希望する方が一人でも多く出現するよう期待します。

 

そして2025年度以降に向けても、シカ・イノシシ、高齢化等への抜本対策につながる事業を何とか急ぎ構築できないか、と、関係機関の皆さまと調整を進めています。

「100万本再生」が達成されるのは、もしかして5年後どころか、2030年代以降になるかもしれません。長い道のりですが、地道に歩を進めていきます。

応援いただきますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。