~アートの自由と斬新さ 糸口に~ 越前水仙×越前焼 MIRAI プロジェクト始動② – Misaki Creators

~アートの自由と斬新さ 糸口に~ 越前水仙×越前焼 MIRAI プロジェクト始動②

投稿者 :TakanoriYamauchi on

◆風土に溶け込み、花を生かす薪窯。

 コーエンれい子さんと連携

越前水仙の里とぜひ、つないでみたいと思っていた越前焼の作家がいます。

越前町の蚊谷寺(かだんじ)という山奥の小さな集落に工房を構えるコーエンれい子さん。

上の写真は、古民家を改装したコーエンさんのギャラリーです。

編集部の予想通り、越前水仙は、薪窯の自然釉が導いた越前焼本来の土色に、美しく溶け込んでくれました。

海の上の高台で凛と咲く清楚な白い花。作家はその魅力を、独自の芸術センスで引き立ててくれました。

◆「呼吸」

つなぎたかったのは、花に寄せるコーエンさんの素敵な創作への想いを、水仙の魅力とともに、多くの人に知っていただきたいと思ったからです。

キーワードは「呼吸」。

蚊谷寺は、山あいの谷間に細長く家が並ぶ静かな集落。写真右端の古民家がコーエンさんの工房です。

ここでコーエンさんは、米国出身の亡き夫・ベンさんから引き継いだ薪窯を使って作陶を営んでいます。

 

銀鼠色(ぎんねずいろ)の越前瓦や漆喰の白壁に象徴されるこの地域特有の伝統建築。その美しさを引き立てながら、工房やギャラリーへと磨き上げています。

中へ入ると、自身の作である花器の数々。周囲の野山の草花を生けて空間を演出しています。

越前の風土に溶け込むように、静かに優しく咲く花が好きなのだといいます。

「この中を見てごらん。1ヵ月も、もっと前から生けているのだけど、花はいまでも生き生きしている」

以前、コーエンさんが語った言葉が印象に残っています。

ガラスや樹脂制に比べて、焼物、特に薪で焚いた器で花を生けると、生命力は明らかに違ってくる、と。

理由は「呼吸」。

窯の中で粘土は、1200度を超える高温で焼き締められます。その過程で粘土は、空気を激しく吸い込む。いわば、呼吸しながら器は出来上がっていきます。「その姿を想像するだけで、この陶器は生きていると感じる。生ける草花と一緒に」

野山で自生する草花をそっと生けると、柔らかに生命を輝かせる。そんな器を作り続けていきたいというのが、コーエンさんの想いです。

◆風土に浸り

コーエンさんの工房に行くと、不思議と心が落ち着きます。

玄関を入ると、ほんのり土のにおい。

格子戸から光が差し込むと、それまで壁の土色に溶け込んでいた漆塗りの古い水屋や花器、草花が、ぱっつと華やぐのを感じます。

コーエンさんをはじめ、越前焼の作家たちが愛するのは、この地の自然や風土。決して華やかではないけれど、住む人、来る人を優しく包んでくれる。

作家たちは一人の生活者として風土に浸り、創作のモチーフとしていきます。澄んだ空気と、ゆったりとした里山の時の流れに身を寄せながら土をこね、火を起こしているのです。

 

一方、同じ丹生山地の海側の一角。

水仙が静かに白い花を咲かせます。

集落に並ぶ民家の瓦も、やはり銀鼠色の越前瓦。

里山、里海の違いはあれども、生活文化は共通です。

このような空間で、農家の皆さんは日々、水仙を収穫したり水洗いを行ったり、選別をしたり、といった作業に励んでいます。

同じ越前において、風土を感度良く捉えながら、創作につなげている越前焼作家たち。

その感性を、越前水仙の里とマッチングさせると、きっと新しい何かが芽生えるはず。

そう考え立ち上げたプロジェクトが、「越前水仙×越前焼 MIRAI 」です。

ブログ①で紹介した越前焼最年少作家の吉田雄貴さんのほか、コーエンさんにも連携をお願いし、未来を拓く手がかりを一緒に考えていくことになりました。

◆斬新切り口

未来を拓くものー。

それは、商品の制作かもしれないし、それ以外の何かかもしれない。結論を見据えずに、まずコラボの一歩となる行動を起こすことが大事。

そう考え、梨子ケ平で摘み取った水仙をコーエンさんの工房に持ち込んだのが冒頭の光景です。

この時は、驚きとともに、ある手掛かりのようなものを感じた瞬間でもありました。

水仙を手にした瞬間、作家は迷わず、葉の上部を真っ二つに切り始めたのです。

「えっ、切るんですか?」

「これが、いいと思ったから。どう? ステキじゃない!」

コーエンさんは、さらりと言いのけ、花器に生ける手を進めたのです。

折れ曲がった葉も、そのまま花器へ。

次の写真が、花を飾り終えた光景です。

なるほど…。切った葉や折れ曲がった葉が、絶妙のアクセントとなっています。

飾り終えた3つの花器を並べると、コーエンさんの世界観が伝わってきます。

水仙の収穫で、農家さんが意識するのは、葉が長くピンと整って、枚数が多いもの。そして、茎の最下部にある白い「ハカマ」と呼ばれる部分の長さ。

「4枚葉」や「3枚葉」と呼ばれ、背丈も葉の数も立派なものが、生け花向けの商品規格として何段階かに分けて花卉市場に出荷されています。農家の皆さんからは「水仙は葉が命」との声もよく聞かれます。

実際に市場では、背丈が短かったり、葉が1~2枚しかなかったり、折れていたり、一部が欠けていたり、ハカマがなかったりといったものは、一本当たりの単価が極端に低くなります。

でも、コーエンさんは、葉が欠けていようが、曲がっていようが、お構いなし。

「水仙って素敵だよね。大好きなお花。うれしい」と目を輝かせながら、感性の赴くまま、自由に生けていきました。

その光景を目にすると、既存の市場の原則といったものが、どこか遠くへ行ってしまいそうでした。

葉が折れたり、曲がったり。それは、自然界で育つ草花にとってはむしろ、ありのままの姿なのかもしれません。清楚な白や香りは変わりありません。

あるいは、花と器のバランスを引き立たせるため、葉も思い思いにカットする。その自由さ、自然との向き合い方…。いろいろと考えさせられるシーンでした。

また、この感覚の延長に、新しい可能性があるのだと、実感したひと時でした。

 × × ×

オンラインショップ「岬クリエイターズ」では、プロジェクト開始を記念して、写真にあるコーエンさん作の花器のうち2点を、梨子ケ平産の水仙とセットで販売しています。

水仙については、農家さんの希望もあり今回は「3枚葉」をセットとして用意しましたが、このブログに記した観点からしますと、「訳あり」もおすすめです。追加でご注文いただけると幸いです。

1月末まで期間限定の実験的な販売です。

関わる皆さまの意見もいただきながら、次の開花シーズンとなる今年の秋の終わりに向け、「訳あり」の在り方も含めて、水仙の新しい価値を生む商品やサービスの方向を考えていきます。

その起点となるのが、越前焼の二人の作家との連携です。

さらに、越前・若狭の各種クリエイターたちとも、いろいろとコラボし、MIRAIへの一手を一緒に模索していきます。

(編集部)

 


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